カリブ海に浮かぶ小さな島国、アンティグア・バーブーダは小アンティル諸島を構成する国で、英連邦王国*1の一つです。周囲は、セントクリストファー・ネービスや英領モントセラトなど同様の小さな島国に囲まれています。
アンティグア島とバーブーダ島の大きな二つの島と、無数の小島で構成されており、美しいビーチが無数に存在する南国です。
日本人にとっては、遠く離れた小さな島国であまり馴染みのない国かもしれません。では、種子島ほどの面積のこの島国が実際にはどんな国なのか見ていきましょう。
基本情報
気候:熱帯雨林気候(Af)に区分され、年間を通して平均最高気温が30℃前後と温暖な常夏の国です。熱帯気候の割に降水量が少なく、湿度が低くカラッとしていますが、時々ハリケーンが襲来します。
2017年に発生したハリケーン・イルマは甚大な被害をもたらし、特にバーブーダ島では95%ほどの家屋が損壊したという壊滅的な被害を受けました。その後に別のハリケーンも接近してきたこともあって、島民全員がアンティグア島に一時避難、バーブーダ等は約300年ぶりに無人となりましたが現在ではその多くがバーブーダ島に戻っています。
地理
島は全体的に平坦な地形をしており、最高峰はかつての火山の噴火口跡であるボギー山の402m。島の周囲には、珊瑚礁やラグーンなど美しい海が広がっており、豊かな海洋生態系を形成しています。
北東からの貿易風*2が常に吹いていますが、標高が低いため降水量は少なく、旱魃が発生することも珍しくありません。
国内には河川がほとんどなく、水資源の不足が大きな問題です。湖沼の水や雨水を貯水して利用していますが、十分な量を確保できていません。
行政区画
アンティグア・バーブーダの大きな行政区画は、6つの教区+セントジョーンズの7教区と二つの属領(バーブーダ島、レドンダ島)です。また、いくつかの都市は複数の教区を跨っているものもあります。
レドンダ島
アンティグア島南西50km程の、モントセラトとセントクリストファーネービスの間に位置する島です。
かつてはリン鉱石の採掘が行われていましたが、第一次世界大戦中に停止し、現在に至るまで無人島となっています。島には固有種が存在し、いくつかの海鳥の繁殖地ですが、ヤギやネズミによってその生態系が脅かされていました。そこで、環境保護団体が2016年にネズミやヤギの駆除を実施、その成果は着実に出ており、固有の生態系が少しずつ回復しつつあります。
歴史
アンティグア島は1493年にクリストファーコロンブスによって発見され、スペインのセビリアにあるサンタ・マリア・ラ・デ・アンティグア教会にちなんで名付けられました。
島の原住民はヨーロッパからの侵略に1世紀以上抵抗し続けたものの、17世紀になってついにイギリスからの入植を許し、その後砂糖の生産地としてスペイン、フランス、イギリスとヨーロッパ諸国の植民地となり、バーブーダ島も1678年に植民地化されています。この時、労働力としてアフリカから奴隷が連れてこられ、現在のアンティグア・バーブーダ国民の多くは彼らの子孫です。
18世紀末になると、アンティグア島は戦略上の重要拠点と見做されるようになり、主要航路の拠点として「カリブ海への玄関口」と呼ばれ要塞などが建設されました。
1834年にイギリスが奴隷解放を行い、アンティグア島の経済状況は徐々に改善されていきます。しかし、元奴隷の人々の生活は依然苦しく、結局劣悪な環境で働くことを余儀なくされていました。
1967年、自治権を得て周囲のカリブ諸国と連携を図りいくつかの組織を結成、現在でも東カリブ諸国機構(OECS)として存続しています。そして、1981年に完全な独立を果たしました。
情勢
治安面について、とりわけ悪いわけではありませんが多くの途上国と同様にスリや窃盗などの軽犯罪がそれなりに発生しており、観光客を狙った犯罪も少なくありません。
経済
アンティグア・バーブーダはオンラインカジノが始まった地として知られており、1994年に世界で初めて政府が公式にライセンスを発行しました。そして現在でも、アンティグア・バーブーダにとってオンラインカジノ事業は経済を支える大きな収入源です。
観光業も盛んであり、リゾート地として主に欧米から多くの観光客が訪れています。貿易相手国としてもEU諸国や米国の占める割合が高く、日本も自動車の輸入先として重要な貿易相手国の一つです。
使用されている通貨の東カリブドルは、1米ドル=2.7東カリブドルの固定相場制を採用しているのが大きな特徴。
軍事
アンティグア・バーブーダ軍は総勢250人程度と、世界最小の軍隊です。主な役割は国防ですが、1983年のグレナダ侵攻ではアメリカ側として参戦しました。
ちなみに国内では軍人以外が迷彩服を着用するのは違法で、これは外国人も同様なので、観光の際は迷彩柄の服を着ないようにしましょう。
文化
料理
アンティグア・バーブーダの国民は西アフリカから奴隷として連れてこられた人々の末裔であることから、料理も西アフリカからの影響が大きいです。その他、旧宗主国のスペインやイギリス、またインドや中国からの影響も見られます。
とうもろこしやオクラをソテーにしたフンジーは、朝食や夕食としてよく食べられるアンティグア・バーブーダの国民食。バナナの葉にさつまいもやココナッツ、さまざまな調味料や香辛料を入れたドゥカナも伝統的な料理で、西アフリカに由来のある料理です。
スポーツ
国内では、クリケットが非常に人気で盛んなスポーツです。周辺国と合同で西インド諸島代表としてワールドカップなどの国際大会に参加して好成績を収めた実績があります。
サッカーも人気スポーツの一つで、アメリカ下部リーグに所属するプロチームも存在しますが、今のところW杯本戦へは出場していません。
音楽
料理と同様に、西アフリカをイメージさせるスタイルや雰囲気があります。また、トリニダード・トバゴの音楽が輸入されており、同国発祥の打楽器であるスティールパンが演奏に使われ、カリブ地域の代表的な音楽ジャンルであるカリプソはアンティグア・バーブーダ内でも広く浸透している音楽の一つです。
観光地
渡航基本情報
アンティグア・バーブーダの玄関口となるのはVCバード空港。日本からの直行便はなく、マイアミやトロントを経由することとなり、現地到着まで丸一日以上かかります。周囲の島々を含め、簡単に行ける場所ではないため訪れたついでにいくつかの島をアイランドホッピングするのも良いかもしれませんね。
国内の見所をいくつかご紹介
ハーフムーンベイ
アンティグア島南東部にあるビーチで、白い砂浜とカリブの青い海で海水浴やシュノーケリングを楽しめます。穴場的なビーチで、周囲は木々で囲まれ小さなレストランやカフェがいくつかあるだけなので、のんびりとした時間を過ごせるのではないでしょうか。
フォートジェームス
18世紀に築かれた要塞の一つで、首都・セントジョーンズを見渡せる岬に位置しています。当時築かれた要塞の中でも最大級のものの一つで、残っている大砲や建物の基礎、周囲を見渡せる眺望が見所です。
セントジョーンズ
首都のセントジョーンズは、クルーズ船の寄港地として人気の都市であり、ショッピングや街歩きが楽しめます。ネオバロック様式*3の塔を擁するセントジョン大聖堂や、カリブの歴史を知れるアンティグア・バーブーダ博物館など見所もたくさん。
入国の玄関口で、旅の拠点になることも多いと思うので1日散策に当ててもいいですね。
国際関係
アンティグア・バーブーダは諸外国との紛争や領土問題は特になく、多くの国際機関に加盟しており、多くの国と外交関係を維持しています。経済面では英米とのつながりが強く、ベネズエラも最大のビジネスパートナーの一つです。
東カリブ諸国とはいずれの国とも良好な関係を保っており、カリブ共同体(CARICOM)などの国際機関を通して経済や外交面での結びつきは非常に強く、密接な協力関係を築いています。中でも最近隣国であるセントクリストファー・ネービスとは、互いにかつて英領であったことなど類似点も多く特に親密な兄弟国のような関係性です。
まとめ
アンティグア・バーブーダはリゾート地として、またハネムーン先として特に欧米人に人気の国です。日本とはあまり接点がなく、距離も離れているのでどんな場所か想像しづらいかもしれません。カリブ海に浮かぶとても美しいこの南国の魅力を実際に確かめに行ってみてはいかがでしょうか。