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旅と地理のまとめ

かつての経済大国 アルゼンチン

南アメリカ大陸南部に位置するアルゼンチン共和国は、チリ、ボリビア、ブラジル、ウルグアイパラグアイ、と国境を接する世界で第8位の面積を誇る国です。広大な国土は地域によって異なる様相を見せ、南極への玄関口となる街もあります。また、アルゼンチンと言えばサッカー大国というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

日本の反対側にある国で、かつては世界トップクラスの経済大国でした。首都のブエノスアイレスは南米屈指の大都市であり、南部に広がるパタゴニアは圧巻の自然を感じられる広大な大地です。パタゴニアのみならず、地域によって異なる自然景観の中には、目を奪われるような絶景が数多く存在します。そんな大都市と大自然が共存する国の姿と魅力について、みていきましょう。

 

基本情報

首都 ブエノスアイレス
人口 4578万人
言語 スペイン語
民族
ヨーロッパ系白人、先住民族
その他(多民族国家
宗教 キリスト教カトリック
GDP 3831億USドル(一人当たり 10,658USドル)
通貨 アルゼンチン・ペソ

 

 

気候:国土が南北に長く、大きく分けて亜熱帯気候、砂漠気候、温帯気候、寒帯気候の4つ気候帯に区分されます。首都ブエノスアイレスを含む北部沿岸部は温暖湿潤気候(Cfa)、パタゴニア偏西風アンデス山脈に遮られることによって乾燥しており、区分としてはステップ気候(Bsk)です。そして、アンデス山脈や南端はツンドラ気候(ET)となっています。

アルゼンチンでは、過去に最高気温49.1℃、最低気温マイナス39℃が観測されており、それぞれ南アメリカ大陸における観測史上最高気温、最低気温です。

地理

アルゼンチンの地域区分は、は23の州と特別区である首都のブエノスアイレスに分けられます。隣国との国境はたいてい山脈や河川などによって隔てられた自然的国境です。また、マルティン・ガルシア島というウルグアイ領海内にある島の飛び地として領有しており、かつてはウルグアイとの領土係争地でした。

 

アルゼンチンの地理的特徴は地域によって異なります。また、南米最高峰のアコンカグア(6960m)、流域面積が世界第4位のラプラタ川、世界第3位の面積を誇る氷原のパタゴニア氷原など規模の大きい自然景観が数多く存在。

国立公園も数多く存在し、世界遺産にも登録されているイグアス国立公園南米で最初に指定された国立公園です。自然保護に力を入れている一方、地震や洪水などの自然災害、大気汚染や砂漠化などの環境問題も抱えています。牛肉大国であり、肉牛の生産過程で発生する温室効果ガスも大きな課題の一つです。

アルゼンチンは地理的に6つの地域に区分され、それぞれの地域で異なる特徴があります。

パタゴニア

有名なアウトドアブランド・パタゴニアの由来となった地で、アンデス山脈に隔てられているためアルゼンチン側とチリ側で環境が異なっており、アルゼンチン側は台風並みの強風が吹き、乾燥した半砂漠地帯であることが大きな特徴です。南緯40以南の地域をパタゴニアと呼び、アルゼンチンの総面積の4分の1ほどを占めています。

パタゴニアの乾燥地帯は雨陰砂漠と呼ばれ、雨陰*1が乾燥の原因となる砂漠のことを言い、アンデス山脈を挟んでチリ側は湿潤な気候となっているのも雨陰砂漠の特徴です。

ちなみにアルゼンチン北部でも同様の現象があるものの立場が逆転し、チリ側が乾燥してアタカマ砂漠を形成しています。

多くの国立公園や南極への玄関口となる街ウシュアイアもこの地域にあり、氷河の作り出した絶景、無数のハイキングコースなど大自然の生み出した見どころにつきません。

パンパ

アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルにかけてまたがる草原地帯で、温暖湿潤気候の湿潤パンパとステップ気候の乾燥パンパに区分され、ブエノスアイレスはこの地域の中心に位置しています。

平坦な草原地帯で、肥沃な土壌も持っているため、アルゼンチンの農業の中心地であり、アルゼンチンの人口の過半数がこの一帯に集中しており、工業生産の大半も行われている、アルゼンチン経済の中心地です。

グラン・チャコ

北東部のブラジル、ウルグアイボリビアとまたがる亜熱帯の乾燥地帯です。洪水と旱魃を繰り返す地域で、人口希薄地帯で野生動物が多く生息しています。

メソポタミア

高温多湿な沖積平野*2で、場所によっては年間降水量が2000mmを超え、気温が40℃に達することもある地域です。冬も基本的に温暖ですが、稀に南からの寒気団の影響で気温が氷点下を下回ることもあります。

クージョ

中西部に位置するクージョは気温の日較差の大きい国内で最も乾燥した地域です。南米最高峰のアコンカグアをはじめ、観光資源に恵まれており、また乾燥している地域特性を活かしてブドウ栽培を行っており、ワインの名産地でもあります。

北西部

文字通り北西部の地域を指し、アンデス山脈の高山、肥沃な渓谷地帯、高原など地域内でも特徴が異なります。温暖で乾季と雨季があり、国内でも特にケチュアアイマラなどの先住民が多く居住し、文化的にその様相がよくみられる地域です。

ウシュアイア

フエゴ島にある世界最南端の都市と言われているウシュアイアは、南極への玄関口ということもあり、観光客で賑わう街です。しかし、現在は最南端の都市ではありません。ウシュアイアより南に位置するチリのプエルトウィリアムズが2019年に市に昇格したことで、世界最南端の都市はこちらに変わりました。ちなみに、さらに南にプエルトトロという集落もあり、民間人の居住する集落としてはこちらが最南端です。

歴史

15世紀後半〜

インカ帝国の一部であったアルゼンチンは16世紀にスペイン人に発見されて以来、植民地化が進んでいきます。インカ帝国は最初こそ侵略に対し抵抗していたものの、最終的には敗北、最初の接触から十数年でインカ帝国は滅亡しました。

19世紀〜

イギリスが2度に渡って侵攻を試みるものの、アルゼンチン側はこれを撃退。その後、1810年ブエノスアイレスにてアルゼンチンの独立運動の発端となる五月革命が発生、1816年に正式に独立を宣言します。この時南米連合州として独立したため、その領土は現在のウルグアイなども含まれており、独立後も国内における幾つかの派閥による内戦状態にありました。

1861年にようやく内戦が終結し国家が統一、国の方針として西欧化に舵を切り多くのヨーロッパ人が移民として大量に移住してきたことで、現在のアルゼンチンは国民の8割以上を白人で占める民族構成を形成しています。この時期に農作物の輸出によって著しい経済発展を遂げました。

当初、一部支配層による寡頭支配が行われていましたが、民衆はこれに反発、徐々に民主化が進み政治が安定、経済も良好な状態を維持しており、1920年代には世界トップクラスの経済大国となりました。

1929年(世界恐慌)〜

1929年、世界規模で発生した世界恐慌の煽りを受けアルゼンチンは徐々に政情不安に陥ります。その後は、大統領に就任したホセ・フェリクス・ウリブルファシズム体制を敷こうとして失敗したり、イギリスに植民地のような扱いを受けたりと、1930年代は「忌まわしき10年間」と呼ばれる時代でした。

1940年〜

第二次世界大戦時、中立国としての立場をとっていた中フアン・ペロン大佐が政治的に台頭、1946年に大統領に就任します。しかし、彼の人気の根幹とも言える妻のエバ・ペロンが亡くなるとともに体制は不安定化。フアン・ペロンの政策は労働者にとって聞こえの良いポピュリズムであり、これが後に経済的に不安定な状況に陥る原因となります。その結果、フアン・ペロンは軍部によるクーデターによって追放されるも、政情不安定な状態が続きました。

1973年フアン・ペロンは帰国し再び大統領に返り咲くも病死。後妻のイザベル・ペロンが跡を継ぐも、失政を重ねハイパーインフレを引き起こし、軍部のクーデターによってかつての夫と同様に追放されました。

1976年〜

1976年、実権を握った軍部は反体制派を徹底的に弾圧。「汚い戦争」と称された一連の事件はいジャーナリストや活動家を中心に犠牲者は万単位に上っています。1982年に勃発したフォークランド紛争*3をきっかけに、すでに瓦解寸前であった軍事政権は崩壊、アルゼンチンは再び民主統治へと戻りました。

2000年〜

2000年以降も経済状況は安定せず、2001年、2014年、2020年と三度のデフォルトを行なっています。

政治面では20世紀と比較すると安定し、2007年にはクリスティーナ・キルチネルが大統領選に勝利し、アルゼンチンで初の選挙による女性大統領が誕生しました。また、2013年にはフランシスコアメリカ大陸初のローマ教皇として選出されています。

唯一の衰退国

アメリカの経済学者クズネッツは「世界には4つの国しかない、先進国、発展途上国、日本、アルゼンチンだ」という言葉を残しています。日本は世界で唯一途上国から先進国の仲間入りを果たした国で、対照的にアルゼンチンは世界で唯一先進国から途上国に衰退した国です。

アルゼンチンは20世紀前半に移民の増加による労働力の安定と農作物輸出によって一気に経済大国へと躍り出ました。当時は日本の2倍以上のGDPを誇り、国情は安定していたもののそう長くは続きません。

経済基盤が農業一本のモノカルチャー経済*4であったため、アルゼンチン経済は徐々に陰りを見せ始め、そんな中世界恐慌が発生、直接的な影響はさほど大きくなかったものの、停滞した経済を立て直せず、結果的にこれをきっかけに衰退期に突入してしまいました。

結局現在に至るまで、かつての経済大国であった頃のように経済状況を持ち直せず、唯一先進国から衰退した国家とされています。

情勢

アルゼンチンの治安はそこまで悪いわけではないものの、特に首都ブエノスアイレスなどの都市では窃盗や強盗に注意が必要です。旅行の際は夜遅くに出歩いたり人通りの少ない場所にむやみに立ち入ったりしないなど、最低限の防犯対策を心がけましょう。

経済

国名が銀の国という意味の通り、銀をはじめとした鉱物資源に恵まれており、銀やアルミニウムなどを輸出しています。その他にも牛肉やワイン、とうもろこしや大豆などの食品も主な輸出品目で、主要な貿易相手国は近隣国のチリやブラジル、EU諸国や中国です。

経済状況は不安定で、近年もアルゼンチンペソの価値は年々下落の一途を辿っています。具体的には、5年前の2017年には1USドルあたり17ペソ程度だったのが、現在では1USドルあたり115ドルペソ程です。また、去年の同時期と比較して物価上昇率55%と物価のインフレ具合からも経済の不安定さが伺えます。

デフォルト

アルゼンチンは2020年にデフォルト*5に陥り、これは通算で9回目のデフォルトとなりました。アルゼンチンは世界の国々の中でも特にデフォルトの回数が多く、昨年は10回目のデフォルトをなんとか回避できたものの、依然として今後の見通しが不透明な状況が続いています。

文化

アルゼンチンの文化はヨーロッパからの影響が大きく、首都のブエノスアイレスはヨーロッパのような街並みから南米のパリと称されるほどです。

民族

アルゼンチン人の大半はヨーロッパ系の白人で、特にイタリア系やスペイン系が多いです。これは19世紀にヨーロッパからの移民が大量に流入し、元々住んでいた黒人やインディヘナなどが近隣諸国に移住していったことに起因します。

また、彼らヨーロッパ系白人の過半数は先住民にもルーツを持つ、ヨーロッパからの移民と先住民の間に生まれた子の末裔です。

ちなみに、現ローマ教皇サンフランシスコはアルゼンチン人でブエノスアイレス出身。

料理

アルゼンチンと言えば肉料理。アサードと呼ばれるバーベキューは、牛肉をメインにラム肉や豚肉などを豪快に焼いて塩を振って食べるアルゼンチンを代表する国民食ガウチと呼ばれるパンパで牧畜を営んでいた民族が牛肉を食べて生活していたことに由来する料理です。

飲むサラダと言われているマテ茶は古くから国民に愛されている飲み物。複数人で飲み回す、先住民の文化が今でも受け継がれています。

菓子パンの一種であるエンパナーダは、ジャムやシナモンを詰めたデザートとして食べられるもの、肉類や野菜を入れスパイスを効かせたものもあり、アルゼンチン全土で食べられている料理の一つです。

その他、アルゼンチン料理は地域によって異なる多彩な食材が使われ調理法も異なります。また、ヨーロッパにルーツを持つ料理も多数。

スポーツ

サッカー大国で、ワールドカップやオリンピックをはじめ数多くの国際大会で優勝した実績のある、常にFIFAランキングで上位に位置する強豪国。ディエゴ・マラドーナリオネル・メッシなど数多くの名だたるサッカー選手を輩出しています。

馬に乗ってボールを奪い合うパトはアルゼンチンの国技。取っ手のついた皮に入ったボールを使う競技で、元々はガウチが仕事の合間に遊んでいたものがスポーツとして発展しました。

アルゼンチンタンゴ

19世紀にブエノスアイレスで生まれたタンゴは、ヨーロッパからの移民、先住民、アフリカからの奴隷などが共存する中で彼らの文化が混ざり合ったダンスで、労働者階級の間で広まっていきました。

アルゼンチンの文化形成に貢献し、現在ではアルゼンチンを象徴する伝統として世界中に広がっています。

 

観光地

渡航基本情報

プラグタイプ O,C,BF
電圧 220~240V 50Hz
道路 右側通行
チップ 必要
ビザ 90日以内の滞在は不要

 

 

日本からの直行便はなく、基本的に北米を経由することとなり、最低でも丸一日はかかります。空の玄関口となるのはブエノスアイレス近郊にあるエセイサ国際空港。その他いくつかの地方都市も国際空港があり、近隣の南米諸国から乗り入れることが可能。チリやボリビアからはバスなどを利用して陸路での入国も可能です。

アルゼンチンは見どころがとても多い国で、多くの観光客が訪れます。特に圧倒的なスケールの大自然。熱帯林から砂漠、氷河と地域によって全く異なる自然の姿が形作られています。

イグアスの滝

ナイアガラの滝、ヴィクトリアの滝と並んで世界三大瀑布の一つである世界遺産に登録されているイグアスの滝。ブラジルとの国境沿いにあり、ブラジルとアルゼンチンのどちらからでも訪問可能。約4kmに渡って、150以上の連なる滝は毎秒65000トンもの水を放出、最大落差80mを越える悪魔の喉笛と呼ばれる一番の名所は、圧巻のスケール。

滝以外にも、トレッキングコースや周囲のジャングルに生息する生物たちも大きな見どころです。

ウマワカ渓谷

アルゼンチン北西部、フフイ州にある渓谷で、7色の断層が大きな特徴。南米のグランドキャニオンとも呼ばれ、2003年に世界遺産に登録されました。

古くからキャラバンロードとして重要な地域で、現在でも周囲には集落が点在しています。また渓谷内にあるオルノカルは、7色どころか14色の丘と呼ばれておりウマワカ渓谷における特に見応えのあるの景勝地です。

ブエノスアイレス

南米のパリとも称される首都ブエノスアイレス内には多くの見どころが点在しています。タンゴ発祥の地であるボカ地区、その中にあるカラフルな街並みのエリア・カミニート、街の中心地とも言える五月広場、著名人や有名人が埋葬される美しい墓地・レコレータ墓地など歴史と文化を感じられます。

パタゴニア

大自然が生み出す絶景が盛りだくさんのパタゴニア。トレッキングやラフティングができる、ロス・グラシアレス国立公園世界遺産にも登録されている氷河の絶景。

パタゴニアの氷河は南極、グリーンランドに次いで世界第3位の規模と言われており、特にペリト・モレノ氷河は現在でも活発に活動する氷河で人気の観光名所の一つ。

最南端の街、ウシュアイアも多くの観光客の訪れる地でブエノスアイレスから飛行機で約3時間で訪問できます。南極へのツアーもここからスタート。パタゴニアは自然好きなら一生に一度は訪れてみたい場所ではないでしょうか。

 

国際関係

アルゼンチンはチリやボリビアなどの近隣諸国と歴史上争った過去があるものの、現在ではその関係性を重視しており、主要な貿易相手でもあります。ブラジルやパラグアイなどと共にメルコスール*6の一員でもあり、経済的な繋がりが強いです。

その中では文化的に近しいウルグアイとは特に良好な関係性で、ヨーロッパ諸国においては、イタリア系の民族が国民の過半数を占めることからイタリア、言語が共通しており、アルゼンチン人の出稼ぎや移住先としても人気のスペインとの関係性が特に深いです。

外交的には西側諸国とも中国ともバランスの良い関係性を維持する方針をとっています。

領土係争地:フォークランド諸島(アルゼンチンーイギリス)

まとめ

アルゼンチンは圧巻の大自然と豊かな文化の共存する魅力溢れる国です。人々は愛国心が強く、その文化に対する情熱と誇りを常に忘れることはありません。

日本の裏側にあり、物理的に遠い国ですが時間をかけて訪れる価値は十分にあると思います。自然、文化、料理、人々などどの面においてでも日本とは全く違う魅力を感じられるはずです。

*1:雨雲が風に運ばれ山を越える際に水分が枯渇し、風下側が乾燥する現象

*2:河川の堆積作用によって形成された平野

*3:1982年、イギリスが実効支配するフォークランド諸島の領有をめぐってアルゼンチンとイギリスの間で勃発した紛争。

*4:一つの産業に頼った経済

*5:債務不履行国債の支払いができなくなること

*6:アルゼンチン、ブラジル、パラグアイウルグアイ+その他南米の準加盟国による自由貿易