コーカサスの火の国 アゼルバイジャン
アゼルバイジャン共和国は、ロシア、ジョージア、アルメニア、イラン、トルコと隣接するイスラム教国家です。
世界最大の湖、カスピ海に面する旧ソ連の構成国の一つ。世界有数の産油国で、バクー油田では古代より石油の生産が行われていました。
その石油によってもたらされたオイルマネーをもとに発展した首都バクーは第二のドバイとも呼ばれ、近未来的な都市が広がっています。
そんなアゼルバイジャンについて、詳しく見ていきましょう。
基本情報
気候
アゼルバイジャンの気候は夏は暑く冬は寒い大陸性の気候で、首都バクーなどの低地はステップ気候(BSk)に分類される乾燥した地域です。
バクーは強い風の吹く都市で、降水量は少なく寒い冬でも雪は降りません。
内陸部や山間部には温暖湿潤気候(Cfa)や冷帯湿潤気候(Dfb)が広がり、さらに細かく分類すると、9つの気候帯が国内に存在します。
地理
アゼルバイジャンはコーカサス地方に位置しており、東部で世界最大の湖カスピ海に面しています。
5カ国と隣接し、そのうちトルコとは飛び地であるナヒチェヴァン共和国と隣接。アラス川に沿った僅か9kmほどの国境線です。
国土の半分は山岳地帯で、最高峰はバザルドゥズ山の4467m。国土を東西に走るコーカサス山脈に冷気団が遮られているため、亜寒帯気候と亜熱帯気候の地域が隣接しています。
コーカサス山脈は降水量、降雪量が多く、周辺地域にとって重要な水資源です。標高の高い地域は針葉樹林、低い地域には落葉樹林が広がります。
クラ川流域の低地は半乾燥地帯が広がっていますが、灌漑されており比較的肥沃。
カスピ海は、ビーチリゾートや油田としてアゼルバイジャンにとって非常に重要な湖。国内を流れる川は全てカスピ海に流れ込んでいます。
歴史
紀元前〜
紀元前2千年ごろ、現在のアゼルバイジャン領域にはアルバニア人の治めるカフカス・アルバニア王国がありました。
ちなみに、このアルバニア人は現在の東欧アルバニアの住民とは全くの別民族。
3世紀になると、サーサーン朝イランの支配下に入り、イスラム世界の一部となりました。
13世紀にはモンゴル帝国、15世紀にはペルシアのサファヴィー朝の支配下に置かれます。このサファヴィー朝の支配下にあったことが、現在のアゼルバイジャン人の大多数がシーア派であることの要因です。
18世紀〜
18世紀にロシアの侵攻が始まり、ゴレスタン条約、トルコマンチャーイ条約の二つの条約によりロシアに併合されました。
20世紀初頭には世界の石油使用量の半分を供給する一大産油国として繁栄。
第一次世界大戦末期に起きた二がk津革命でロシア帝国が崩壊すると、アルメニア、ジョージアと共にザカフカース民主連邦共和国を形成。
しかし、2ヶ月もしないうちに3カ国に分裂。アゼルバイジャンはイスラム世界初の議会制の共和国であるアゼルバイジャン民主共和国として独立しました。
独立後すぐにナゴルノ・カラバフをめぐってアルメニア第一共和国との戦争が勃発。その後、独立から2年でソ連に組み込まれることとなりました。
第二次世界大戦時には、ナチスドイツが豊富な石油を狙ってバクー侵攻を試みるも失敗。
1991年、ソ連の崩壊に伴い、アゼルバイジャン共和国として独立を果たしました。
情勢
治安は比較的安定しており、テロ等も今の所発生していません。もちろん、最低限の防犯対策は必要です。
しかし、2020年のアルメニアとの紛争以降テロの発生に対する注意喚起がなされており、その脅威が高まってきています。
特にアルメニアとの国境付近では、停戦に至った現在でも安全とは言えず、近づかない方が無難です。
経済
アゼルバイジャンは火の国と呼ばれており、その理由は豊富な埋蔵量を誇る石油や天然ガスなどの天然資源。
アゼルバイジャンはこれら天然資源をもとに2000年代には急速な経済発展を遂げました。
首都バクーからトルコのジェイハンまで伸びるパイプラインも2006年に完成し、世界第二位の規模の石油パイプラインとしてヨーロッパ方面への石油輸出の役割を担っています。
近年は天然ガスの生産、輸出にも力を入れており、アゼルバイジャン経済は天然資源への依存度が高いです。
主な貿易相手国はヨーロッパ諸国で、石油や石油関連のものを輸出。
西側諸国にとってアゼルバイジャンの油田は、ロシアに干渉されないことから重要視され、多くの石油関連会社が出資しています。
観光地としての魅力も高い国で、観光業は一時期紛争の影響で陰りが出たものの、2010年代以降は再び観光客が増加していきました。
紛争
隣国アルメニアとは、現在停戦しているものの、未だに紛争状態にあります。2020年に本格的な軍事衝突があり、この時は事実上アゼルバイジャンの勝利という形で停戦に至りました。
その舞台となっているのが、ナゴルノ・カラバフ地方。アゼルバイジャン領内にあるものの、アルメニア人比率が高い地域です。
国際的にはアゼルバイジャン領とされている同地域のアルメニア系住民が、アルツァフ共和国として独立宣言をしたことで紛争に発展。
アルメニアが事実上支配していたアルツァフ共和国は、2020年の紛争の結果、その領土の大部分がアゼルバイジャンに返還されました。
文化
文化的特徴
アゼルバイジャンの文化は、何千年にもわたる歴史の中で形成され、さまざまな文化の入り混じる中で独特の文化が形作られました。
遊牧民の伝統やペルシャ、アラブ世界の文化が融合して現在のアゼルバイジャンの文化となっています。
これらの文化は音楽やダンス、芸術品、映画などによく表れており、音楽などはユネスコの無形文化遺産にも登録されているほどです。
アゼルバイジャンの伝統的なライフスタイルは地域ごとに異なり、各地のフェスティバルに参加してその伝統を味わうこともできます。
料理
アゼルバイジャン料理は、イランなど中東の影響を受けており、さまざまなハーブやスパイスを使うのが特徴。
また、ワインの産地としても有名。他の二つのコーカサス諸国と同様に、ワインの発祥地と言われています。
プロフはアゼルバイジャンの代表的な料理の一つで、肉や野菜類にハーブを加え、サフラン風のご飯と混ぜたもの。
ドルマはアゼルバイジャンの伝統的な料理で、肉や豆類などさまざまな具材とスパイスを混ぜ合わせブドウの葉で包んだもの。野菜に詰めるものもあります。
ラム肉のシチューであるブグラマは、ヘルシーなアゼルバイジャン料理。ラム肉をトマトや黒胡椒などと共に煮込む料理です。
建築
アゼルバイジャンの建築物は、東西双方の文化が混ざり合っているのが特徴。首都バクーにある乙女の塔などがその代表的な例の一つ。
現在のアゼルバイジャンでは、近代的な建物が建設されており、フレイムタワーは現代アゼルバイジャンの建築を象徴する建造物。
バクーの街並みは、旧市街の歴史的な建造物と、それらと対照的な近代的な建造物が建ち並んでいるのが大きな特徴です。
スポーツ
アゼルバイジャンは他の多くの国と同様に、サッカーが最も人気のスポーツです。
ワールドカップへ出場したことはないものの、ヨーロッパリーグでは好成績を収めたこともあります。
格闘技も盛んで、フリースタイルのレスリングは国内における伝統的なスポーツ。日本で言う相撲のような国技に当たります。
チェスの強豪国でもあり、著名なチェスプレイヤーを数多く輩出。国を挙げてチェスに取り組んでいます。
観光地
渡航基本情報
アゼルバイジャンの空の玄関口となるのはヘイダル・アリエフ空港。ヨーロッパ諸国や中東との路線が多く、日本から訪れる場合はドバイや北京で乗り継ぎとなります。
陸路で国境を越える場合は、ジョージアかイランからの入国となり、紛争状態にあるアルメニアからの入国はできません。
印象的な建造物や、天然資源の作り出した景観がアゼルバイジャンの観光地としての魅力。
バクー
アゼルバイジャンの首都バクーはカスピ海に面した油田の街で、コーカサス地方最大の都市。
三棟建ち並ぶフレイムタワーが印象的。炎をイメージしたこの建物は、火の国と呼ばれるアゼルバイジャンを象徴しています。
城壁で囲まれた旧市街は、城壁都市バクー、シルヴァンシャー宮殿、及び乙女の塔として世界遺産に登録されている歴史ある街並み。
戦争や紛争で亡くなった人々を祀った殉教者の小道もまた、アゼルバイジャンの歴史を感じられる場所。
ヤナルダグ
バクーから車で30分ほどの場所にあるヤナルダグは、噴出する天然ガスが自然発火して燃え続けている場所。
ヤナルダグは燃える山という意味で、2000年以上燃え続けていると言われています。特に夜は揺らめく炎が神秘的。
この燃え続ける炎は、火を崇拝するゾロアスター教の信仰に影響を与えたと言われています。
ゴブスタン
ゴブスタンの岩絵の文化的景観として世界遺産に登録されているで、古代彫刻や泥火山*1が見られる国立保護区です。
60万を超える数の岩絵があり、先史時代の生活を読み取れる考古学的にも非常に重要な場所。
また、全世界にある泥火山の過半数がこのゴブスタンやカスピ海にあると言われています。
国際関係
紛争と国際関係
アゼルバイジャンと周辺国との関係性は、ナゴルノ・カラバフ紛争に大きく影響されています。
ロシアはこの紛争においてアルメニア側を支援する立場にあり、一定の関係性を維持しているものの、良好とは言えません。
パキスタンはアゼルバイジャンを支持しており、関係性は良好。むしろ、アルメニアに対しては国家承認すらしていません。
紛争相手国のアルメニアとは当然外交関係を結んでおらず、現在は停戦状態にあるものの、まだ問題の根本的な解決には程遠いです。
その他国際関係
アゼルバイジャンは、イスラム教国でありながらイスラエルとの関係が良好です。
貿易面では、イスラエルへ天然資源を輸出し、イスラエルからは農作物などを輸入。また、紛争においてもイスラエル製の兵器が多く使用されました。
アゼルバイジャン国内にはユダヤ人コミュニティがあり、これまで迫害や虐殺の歴史がなく、長きに渡りユダヤ人が平和に暮らすことができています。
トルコは最友好国とも言える国。文化的、人種的、言語的に近しく、外交的な結びつきも強固なものです。
紛争においても、常にトルコはアゼルバイジャンを支援してきました。
西側諸国とはロシアへの対抗目的もあり、外交的、経済的関係性を強めつつあります。
まとめ
アゼルバイジャンは、イスラム教国でありながら気軽にワインが飲めたり、イスラエルとの関係も悪くなかったりと、他にはない独自の特徴を持つ国です。
過去と近未来が融合したかのような街並み、豊かな自然景観など人々の目を惹きつけるものも数多くあります。
他にはない独自の魅力を持った火の国、それがアゼルバイジャンという国です。
*1:泥水が噴出する場所