カリブ海のイギリス バルバドス
バルバドスはカリブ海最東端に位置する国で、イギリス連邦*1の構成国です。去年11月に共和制に移行して英連邦王国*2を脱退しました。
全体がサンゴ礁に囲まれており、観光業が盛んな国。カリブ海諸国で最も裕福な国の一つです。
リトルイングランドと称されるほど、建築物など文化的な面で旧宗主国のイギリスの雰囲気が強く残っています。
日本から遠く離れた島国であまり馴染みがなく、名前すら聞いたことがない人もいるかもしれません。
そこで、バルバドスがどんな国なのか詳しく見ていきましょう。
基本情報
気候
バルバドスは全体が熱帯モンスーン気候(Am)に属する南国。年間を通して雨季と乾季に分かれています。
年間を通して平均最高気温が30℃程で温暖。ただ、北東から貿易風が吹き付けるためそこまで暑くはありません。
カリブ海は基本的にハリケーンの被害が多い地域ですが、バルバドスはハリケーンの進行ルートから外れることが多く、直撃することは数十年に一度程度。
雨季は6月から11月で、乾季は12月から5月まで。乾季と言っても全く雨が降らないわけではなく、適度な降雨が見られます。
地理
バルバドスは小アンティル諸島最東端に位置する国です。本島一つのみで構成されていて、他に国土となる島はありません。
セントビンセントの東160kmに位置し、南北に最大34km、東西に最大23km、海岸線の長さは97kmです。
国土面積は種子島と同程度で、島全体の85%が珊瑚石灰岩で覆われた平坦な地形をしており、最高峰はヒラビー山の314m。
その立地や成り立ちから、他の小アンティル諸島の島々とは一線を画した特徴を持っています。
カリブ海の島の一つとされていますが、地理的には大西洋上の島で、カリブ海の島には含まれません。
近隣の他の島々が火山の噴火やプレートの衝突によって生まれたのと違い、バルバドスは珊瑚礁の隆起によって生まれました。
他の島々と比べて東側に位置していることから、自然災害が少ないのが特徴。火山はなく、ハリケーンも滅多に直撃しません。
行政区画
バルバドスは大きく11の行政教区に分けられます。
首都ブリッジタウンのあるセント・マイケル地区が最も人口が多く、クライスト・チャーチ地区以外全て地名がセント〜教区です。
歴史
バルバドスの最初の定住者はアラワク族とされています。4世紀ごろに定住し、漁業やキャッサバ等を育てて生活を営んでいました。
ヨーロッパ人到来〜
15世紀になり、スペイン人がバルバドスに到達。この時スペイン人は先住民を奴隷として他の島に連行したためバルバドスは無人になりました。
その後、ポルトガル人のペドロ・カンポスがこの島に上陸した際、顎髭のような見た目のイチジクをみて、島をロスバルバドスと命名。
この「顎髭を生やしたもの」を意味するロスバルバドスが現在のバルバドスの国名の由来とされています。
スペイン人はバルバドスの支配権を得てプランテーション農園を作ったものの、他の大きな島々を制圧したことで放棄しました。
入植開始〜
1627年に最初のイギリス人入植者が到着。これが、バルバドスにおける初めての永続的な入植となりました。
この時90人が入植、現在のホールタウンに当たる場所に集落を形成してジェームズタウンと命名。
1640年にサトウキビの生産技術が導入され、一気に拡大。労働力確保のため、アフリカから黒人奴隷が連れて来られました。
この時に白人の多くが島を去り、プランテーション農園主など一部の支配者のみが島に残っています。
19世紀〜
1807年にイギリスで奴隷貿易が禁止されたものの、奴隷制度自体は未だ続いていました。
1816年にはアフリカ人奴隷ブッサによる大規模な反乱が発生。農園主打倒を目指しましたが鎮圧されてしまいます。
1834年にようやくイギリスで奴隷廃止法が可決され、奴隷解放がなされました。
独立〜
1958年にカリブ海地域のイギリス領の島々は西インド連邦を結成。独立国となることを目指しますが、各島の方針が合わず数年で瓦解。
バルバドスも西インド連邦の一員でしたが、瓦解と共にイギリス領に復帰、その後1966年に改めて独立を果たしました。
独立後もイギリス連邦や英連邦王国の一員としてイギリスとの深い関係性を維持します。
2021年に英連邦王国を脱退し共和制に移行。サンドラ・メイソンが初代大統領に選出されました。
情勢
治安
バルバドスは観光立国で、外国人観光客が多く、カリブ諸国の中で政情が最も安定。治安面も大きな問題はありません。
政治的権利や市民自由度を評価する自由度ランキングでは世界第14位と先進国レベルの評価を受けています。
もちろん窃盗やスリなどの軽犯罪は発生しているので、最低限の防犯意識を持つことは大切です。
経済
観光業が国の基幹産業で、2020年にはコロナウイルスの影響で大きなマイナス成長となったものの、カリブ地域で最も経済的に安定した国の一つ。
一人当たりのGDPはカリブ海域の独立国の中ではバハマに次ぐ高さで、高所得国*3に位置付けられます。
しかし、観光業によって大きく賄われているバルバドス経済は外部からの影響へ脆弱性が懸念事項です。
コロナウイルスの影響で経済的に大きな打撃を受けたことは、その大きな例と言えます。
国内の耕作可能面積は広く、農業面ではサトウキビの栽培が盛んで、主要輸出品目の一つ。主な貿易相手国はアメリカや周囲のカリブ諸国です。
自国通貨であるバルバドスドルは1USドル=2バルバドスドルの固定相場制を採用。
2022年の経済自由度指数*4は世界第28位と日本を上回っており、南北アメリカ地域ではカナダ、チリ、アメリカに次ぐ第4位です。
文化
料理
バルバドス人がかつてアフリカから連れてこられた人々の末裔にあることから、西アフリカにルーツを持ちます。
そのほかにも、イギリスやクレオール料理の影響も受け、それらが混ざり合ってバルバドス料理を形成。
代表的な伝統料理として知られているのがカウカウ。コーンミールとオクラを混ぜて作る、シチューのような料理です。
周辺の海でよく獲れるトビウオも、人気の食材。ハーブやスパイスで味付けをして、グレイビーソースで揚げてフライにします。
バルバドスののみものと言えばラム酒。世界最古の醸造所があるとされ、マウントゲイなど著名なブランドのラム酒が製造されています。
スポーツ
クリケットは国内で最も人気のスポーツ。国際大会には、周辺諸国と共に西インド諸島として出場し、優勝経験もあります。
競馬は1845年から長く行われ続けている伝統的な競技です。ブリッジタウンにあるギャリソンサバンナで毎年3シーズンに分けてレースが開催されます。
ロードテニスは1930年代に、バルバドスで庶民が気軽に楽しめるスポーツとして誕生。現在ではアメリカや他のカリブ諸国にも普及しています。
建築
バルバドスの文化はイギリスの影響が大きく残っており、特に建築物にその様子がよく見て取れます。
ビクトリア様式など、イギリスの建築様式の建物が主流で、素材として木材や石材のほか、珊瑚も使用。
また、植民地時代の奴隷の家屋は簡単に移動できる簡素なもので、西アフリカの影響を感じさせる色彩の鮮やかな建造物です。
観光地
渡航基本情報
バルバドスにある国際空港は、グラントレー・アダムス国際空港の一つのみ。日本からの直行便はありません。
日本から訪れる場合、基本的にアメリカを経由することとなり、所要時間は最短でも丸一日程かかります。
バルバドスは車で1日あれば一周できる程度の小さな島。南国らしく美しい海と、イギリスの雰囲気の残る街並みが大きな特徴。
首都ブリッジタウンは、イギリスの雰囲気の残る街並みで、旧市街は世界遺産に登録されています。
ダウンタウン内にある主要な観光地は狭い範囲に収まっているものが多く、徒歩での観光が可能。
可動橋であるチェンバレン橋とその周辺にある、国立英雄広場や独立記念公園が観光の中心地。
カーライルベイ
ブリッジタウンの南部に位置するカーライルベイ。べプルスビーチなどいくつかのビーチが広がる美しい海域です。
浜辺でリラックスしたり、さまざまなマリンアクティビティに参加したりとターコイズブルーの海で思うがままに楽しめます。
海岸近くに沈んでいる沈没船の残骸を見学できるツアーもあり、観光客に人気のあるツアーです。
アニマルフラワーケープ
島の北端の崖下にある絶景スポット。崖下の洞窟内の海に向けて開けた入り口からカリブ海の美しい景色を堪能できます。
崖の上にはレストランや土産物店、展望台があり、展望台からの眺望も見応えのある絶景です。
2月から4月にかけてはザトウクジラが見られるチャンスがあり、20分程度のガイド付きツアーが開催されています。
ハリソン洞窟
地下に広がる広大なハリソン洞窟は、石灰岩の侵食作用によって形成された鍾乳洞です。
小川や差し込む光などの見どころのほか、暑さを逃れて涼む場所としてもぴったり。ガイドによる案内のもと見学することとなります。
国際関係
バルバドスは特にカリブ共同体(CARICOM)との協調を基軸に据えた外交を展開しています。
カリブ共同体創設メンバー4か国*5のうちの一つであり、域内の交流は政治的、文化的に深く、近隣諸国に身内がいるバルバドス人も少なくありません。
欧米諸国とも友好的な関係性を築いている一方、中国や北朝鮮、キューバとも国交を有しています。
イギリスとの関係
旧宗主国であるイギリスとは、独立後も良好な関係性を維持。経済的、文化的にイギリスの影響が色濃く残っています。
イギリス連邦の一員であり、公用語が英語であることや、左側通行であることなどイギリスとの共通点が多いです。
カリブ諸国内におけるイギリス人の割合は最も高く、南北アメリカ全ての国家の中でも上位に位置しています。
トリニダード・トバゴとの関係
トリニダード・トバゴとは同じカリブ共同体の創設メンバーとして経済的に繋がりが深い一方、領海の境界をめぐって対立。
経済面や民間レベルでは良好な関係性にあるものの、政治的にやや対立関係にある一面が見られます。
二国間を結ぶ天然ガスのパイプラインを敷設したり、互いに相手国からの観光客も多く、切っても切れない関係性です。
まとめ
カリブ海に浮かぶ小国バルバドスは、カリブ諸国の中では比較的安定していて豊かな、優等生といえる国。
イギリスの面影が色濃く残る文化と美しい海に囲まれ、訪れる価値の十分にあると思います。
日本人にあまり馴染みのない国ですが、とても魅力的でカリブとイギリスの両方の雰囲気を感じられる国です。