ワッフルとチョコレート ベルギー
ベルギー王国はオランダ、ドイツ、ルクセンブルク、フランスと隣接する西ヨーロッパの立憲君主制の国です。
オランダ、ルクセンブルクと共にベネルクス三国と呼ばれ、EUの中心的な役割も担っています。
面積の狭い小国ながら、世界トップクラスの経済水準を誇っており、国際社会における役割も大きい国です。
地域によって民族や言語が異なり、地域ごとの格差や対立はベルギーの抱える大きな問題の一つ。
では、ベルギーがどんな国なのか、詳しく見ていきましょう。
基本情報
気候
国土全体が夏は暑すぎず、冬は寒すぎない西岸海洋性気候(Cfb)に属しており、年間を通して過ごしやすい気候です。
年間を通して気温は平均的に3度から25度の間で推移しますが、稀に30度を超える暑い日や、氷点下を下回る寒さの厳しい日もあります。
降水量も年間を通して月当たり50mmから80mmとほぼ一定で、地域による気候の差異もほとんどありません。
細かく見ると、冬場の方が若干降水量が多く、霧が頻繁に発生。気候の僅かな地域差は標高によるものです。
地理
地理的特徴
ベルギーは北はオランダ、南はフランス、西はドイツとルクセンブルクと国境を接し、西側は北海に面しています。
日本の12分の1ほどの国土面積で、言語によって地域が南北に区分されているのが大きな特徴。
西欧の中心に位置しており、そんな地政学的に重要な場所にある首都ブリュッセルは多くの国際機関が本部を設置する国際都市。
国土は全体的に標高が低く、最高標高はボトランジュの694m。北海に近い北西部は平地が広がり、南東部の内陸側はアルデンヌ地方と呼ばれる高地です。
海沿いの海岸平野は干拓地と砂丘で構成され、海抜0m以下の土地もあります。
アルデンヌ地方は広大な自然が広がり、落葉樹のオークを主として構成される森林には数多くの動植物が存在。
都市域以外は農地や森林など緑の大地が広がるものの、人口過密が原因で環境汚染が大きな問題となっています。
水質はヨーロッパ内で最低レベルと評されており、河川の汚染は特に深刻な問題です。
行政区画
ベルギーは大きく分けてオランダ語圏のフランデレン、フランス語圏のワロン、首都圏ブリュッセルの三地域に区分されます。
フランデレンとワロンはそれぞれ5つずつ州があり、ブリュッセルはフランデレン地域に囲まれていますが、独立した地域です。
国土の中央を東西に言語境界線が走り、国土を北部のオランダ語圏と南部のフランス語圏に区分。
東端のリエージュ州には少数のドイツ語圏も存在し、首都ブリュッセルは双方の言語が使われています。
フランデレン地域
・アントウェルペン州
・ウエスト・フランデレン州
・リンブルフ州
ワロン地域
・エノー州
・ナミュール州
・リエージュ州
・リュクサンブール州
国境線
ドイツとの国境は複雑な形をしており、幅10mにも満たないベンバンというベルギー領の廃線跡がドイツ領の間を通っています。
ベルギーには飛び地が存在。オランダ内のバールレ・ナッサウには22ものベルギーの飛び地があり、さらにその中に8つのオランダの飛び地が点在。
この国境線は民家などの建物内を通っているものもあり、寝室がオランダで風呂がベルギーということも。
このような民家の住人は、正面玄関がある方の国の国民とみなされ、税金に関しても玄関側の国に納めることとなります。
歴史
先史時代
ベルギーには10万年前から人類が定住していたとされ、1829年にネアンデルタール人の化石が発見されています。
33,000年前の飼い犬と思われる犬の化石も発見されており、3万年前にはクロマニョン人がベルギーの地に定住しました。
紀元前5,200年頃、ドイツより波及した刻線帯文土器文化が発展。紀元前2,500年頃にはインド・ヨーロッパ語族の人々が青銅器文化と共に到来。
紀元前500年ごろにはラテーヌ文化がアルプス方面より広がり、古典的なケルト文化をもたらしました。
古代
紀元前57年に、ガイウス・ユリウス・カエサルはガリア*1全体を征服。ベルギーはその一部に組み込まれます。
4世紀にはフランク人王朝のメロウィング朝による支配が確立。クローヴィス1世は周囲のフランク人居住地の統一を成し遂げました。
その後、カトリックへの改宗を行い、市民の間にも広く普及していきました。
中世
8世紀にはリエージュ出身のカールマルテルが権力を掌握。イスラム王朝であるウマイヤ朝の侵攻を退けました。
9世紀にはカールマルテルの孫にあたるカール大帝が神聖ローマ皇帝として戴冠。リエージュ近郊のアーヘンに首都を置きます。
この時代、ギルドが設立されフランデレン地方は織物業の中心地として発展。世界各地へと輸出していました。
11世紀頃から、ベルギー内の地域がいくつかの封建国家が独立。しかし、フランスやイングランドからの圧力を受けます。
1302年、併合を目論み進行してきたフランス軍を、農民に扮したギルドメンバーが金拍車の戦いで撃退。
15世紀には政略結婚によって現在のベルギーのほぼ全土がブルゴーニュ公国領となりました。
近代
16世紀になるとハプスブルク家の支配下に置かれ、1519年にゲント出身のカール5世が神聖ローマ皇帝として即位。
この頃、ルネサンス美術が普及し、ベルギーの諸都市はその中心として繁栄しました。
17世紀から18世紀にかけて、ベルギーはいくつかの戦争に巻き込まれ続け、フランス、スペイン、オーストリアから支配を受けます。
独立後
1815年、ナポレオン・ボナパルトがワーテルローの戦いで敗北し、ネーデルラント連合王国としてオランダの一部として併合。
1830年、オランダのプロテスタント支配に対する不満からベルギー独立革命が勃発し、独立を果たします。
独立後、産業革命により急速に発展。コンゴを植民地として獲得するなど、強国の一つとなります。
20世紀初頭にはヨーロッパで最も一人当たりのGDPが高く、万国博覧会を4度主催するなど経済と文化の中心地へと成長。
その後、2度の世界大戦ではドイツからの侵攻を受け、一時その占領下にありました。
情勢
治安
ベルギーの治安は悪くはありませんが、スリやひったくりなどの軽犯罪は少なくありません。
荷物から目を離したり、電車内で無防備に居眠りするのは軽犯罪の標的になりかねないのでやめた方がいいでしょう。
また、ベルギーは他のヨーロッパ諸国同様移民が多く、彼ら移民による犯罪も増加傾向にあるので、注意が必要です。
経済
一人当たりのGDPは世界第16位と、高い経済水準を誇る国の一つ。産業はフランデレン地域とブリュッセルを中心に発達。
工業やサービス業など、自由市場経済は十分に発達していますが、諸外国との貿易に依存気味なのが大きな特徴。
EU諸国が主な貿易相手国で、輸出も輸入も化学製品や輸送機器が大きな割合を占めています。
西ヨーロッパの中心として鉄道や道路網、運河などのインフラが十分の整っており、また、労働生産性の非常に高い国です。
工業の非常に発達した国ですが、チョコレートやワッフルなどの菓子類、ビールの生産地としても有名。
国内にはエネルギー資源に乏しく、総エネルギー量の40%程度を輸入で賄い、残りの大半は原子力で賄っており、火力発電等はごく僅かです。
政府は外国企業投資に力を入れており、またEUの中心地でもあることから多くの外国企業が本社をブリュッセルに置いています。
言語戦争
フランデレンとワロンの二地域間の対立はベルギーの大きな課題の一つ。南北で明確に言語境界線が引かれ、フランス語圏とオランダ語圏に分かれています。
南北の経済格差も大きく、サービス業等が発展した北部に比べ南部は貧しく、失業率も高いです。
かつては南部が石炭や鉄鉱石の生産で発展していましたが、現在は衰退。19世紀に北部で起きた産業革命により立場が逆転してしまいました。
この南北の対立は言語戦争*2に発展し、連邦制に移行した今でも対立は暗に存在しています。
文化
ベルギーの文化はフランデレンとワロンで大きく異なり、多言語国家ならではの多様な文化が形成されています。
言語
ベルギーは言語ごとに地域が憲法上で区分されています。オランダ語とフランス語の他、ワロン北東部に僅かにドイツ語地域が存在。
この3つの地域はそれぞれ自治権を有し、それぞれの言語を公用語としています。
ブリュッセルはオランダ語とフランス語の二言語地域で、マルチリンガルの国民も多いです。
ベルギーのオランダ語はフラマン語と呼ばれ、オランダ語のベルギー方言とされることもありますが、違いはほとんどありません。
料理
ベルギーは地域ごとに食文化が異なり、ドイツやフランス、オランダなどの周辺国の影響を受けています。
その中でも、ワッフル、チョコレート、ビール、フライドポテトはベルギーを代表する食べ物です。
フライドポテトはベルギー発祥とされている国民食。フリッツと呼ばれ、マヨネーズを添えて出されるのが特徴。
ムール貝はフライドポテトと共に提供され、白ワインやベルギービールで調理される、安価で人気の料理の一つ。
ベルギービールは多種多様な銘柄があり、色や味、香りなどがそれぞれ異なり、さまざまなビールを楽しめます。
チョコレートは19世紀から生産されている伝統的なお菓子。安価なものから高価なものまで、さまざまなチョコレートブランドがあります。
ベルギーと言えばワッフルとのイメージもあるほどのワッフルの本場。長方形でサクッとしたものと、丸くふんわりした2種類のワッフルがあります。
スポーツ
ベルギーはサッカーが圧倒的に人気スポーツでFIFAランキング2位の超強豪国。世界的な選手も数多く輩出。
意外なことに、ワールドカップの最高順位は2018年の3位でこれまで優勝経験はありません。
自転車競技はベルギーの国技で、ロードレースなどの世界大会も開催。競技としてだけでなく、サイクリングも人気です。
テニスも広く人々の間で人気があり、たいていの街にテニスコートがあり、気軽にプレーできます。
芸術
ベルギーは歴史的に芸術活動が盛んで、数多くの著名な画家を輩出。ヨーロッパの芸術にも大きな影響を与えてきました。
ヤン・ファン・エイクやルネ・マグリットなどの著名な画家の作品は、国内の美術館等で鑑賞可能。
芸術の街と呼ばれる都市がいくつもあり、歴史と伝統の感じられる作品に触れられます。
観光
渡航基本情報
観光のベストシーズンは4月から9月の間。日が長く、比較的穏やかな気候の日が多いです。
ブリュッセル国際空港へは成田空港から直行便があり、所要時間は12時間程度。中東やヨーロッパ諸国の乗り継ぎ便もあります。
シェンゲン協定加盟国で、交通網も発達しているので隣接国から陸路でのアクセスも容易です。
中世ヨーロッパの雰囲気の残る古都で、歴史地区は世界遺産に登録された街並みです。そのほかにも2つの世界遺産があります。
運河の張り巡らされた水の都で、街並みは屋根のない美術館と称され流ほどの美しさ。
街の中心であるマルクト広場や世界遺産の鐘楼など、街歩きが楽しい都市。鐘楼の展望台からは街並みが一望できます。
歩いている時とは違った視点で街並みを楽しめる、運河をめぐるボートツアーも人気アクテビティ。
国際都市ブリュッセルは、さまざまな人種・民族の人々が暮らしており、多様な文化や食べ物と巡り合える街。
ベルギーを代表する観光名所であるグラン・プラスは世界遺産に登録されている石畳の広場。かつてのギルドハウスが立ち並んでいます。
また、ブリュッセルと言えば小便小僧。500年以上の歴史があり、敵軍を小便で追い払ったことに由来するとか。
芸術の丘や王立美術館に立ち寄って、歴史的な価値のある芸術作品に触れてみるのもいいですね。
ベルギー第二の都市にして、巨大な港を持つ港湾都市。ダイヤモンドの取引量は世界一です。
フランダースの犬の舞台として知られ、ベルギーの文化的な首都とも言える都市で、多くの著名な芸術家を輩出しました。
ノートルダム大聖堂はフランダースの犬に登場する大聖堂で、記念碑や美術品が展示されています。
アントワープ中央駅も駅でありながら、美しく壮大な造りから街の大きな見どころの一つ。
ゲント
ブルージュと同様に運河の張り巡らされた、中世ヨーロッパの街並みの残る古都。ベルギー第三の都市でもあります。
ブリュッセルから30分ほどの距離にあり、気軽に日帰りで観光可能。かつては織物業で繁栄しました。
川沿いに立ち並ぶギルドハウスや大聖堂など、当時の歴史とその繁栄を垣間見ることができます。
国際関係
国際都市ブリュッセル
EU、NATO双方の原加盟国であるベルギーは、両機関にとって特に重要な国の一つ。どちらも本部をブリュッセルに構えています。
ブリュッセルはヨーロッパの首都とも呼ばれ、EUの政治・経済の中心となる都市です。
これはブリュッセルが西欧の中心に位置しており、海に面し、他のヨーロッパ諸国の首都からも比較的近いことが理由です。
各国との関係
ベネルクス三国と呼ばれるベルギー、オランダ、ルクセンブルクは古くから密接な関係性にありました。
EUの前身である欧州共同体(EC)発足前から関税同盟を結ぶなど、他のヨーロッパ諸国より早くから連携。
オランダとは特にフランデレン地方が文化的にも近しく、交流が深く、ライバルのような一面もあります。
ルクセンブルクとは兄弟国のような関係性で、ベルギーのフィリップ国王とルクセンブルクのアンリ大公は従兄弟です。
フランス
ワロン地域はフランス語が公用語であり、文化的にも近しいものがあることから二国間関係は良好。
フランス国内の革命に触発されたことで、ベルギーは独立を果たしたこともあり、歴史的に深い関わりがあります。
モロッコ
ベルギーに居住するモロッコ人移民の割合は高く、二国間の関係性は密接。1960年以降、開発協力パートナーとして協定を結んでいます。
コンゴ民主共和国はかつてベルギーの植民地であり、現在では多くのコンゴ人がベルギーへ移住。
アメリカ
ベルギーの独立時から外交関係を結び、政治や経済、軍事などさまざまな面で協力関係を構築。
EU圏外における主要貿易相手国でもあり、アメリカのベルギーに対する直接投資額もかなりのものです。
南欧諸国
ベルギーはアルバニアやセルビア、トルコなどのEU加盟に肯定的な立場をとっています。
特にトルコとの関係性は良好で、大規模なトルコ人コミュニティもベルギー内に存在。
まとめ
オランダ語圏とフランス語圏ではっきりと分かれているベルギーは、二つの異なる独立国のようにも思える国です。
しかし、この状態で政治的な混乱がありながらも200年近く国家を維持してきました。
小国ながら国際社会において重要な位置にあり、経済的に豊かで大いに発展している国です。
やや不可解な政治体制を敷き不安定に見えるものの、国際的に地位の高く豊かな、他にはない珍しい特徴を持っている国ですね。