ヨーロッパ最後の独裁国家 ベラルーシ
ベラルーシ共和国はロシア、ウクライナ、ポーランド、リトアニア、ラトビアに囲まれた東ヨーロッパの国です。
旧ソ連の構成国で、独立した現在でもロシアと経済的、政治的に密接な繋がりがあります。
ヨーロッパ最後の独裁国家と呼ばれており、ルカシェンコ大統領は大統領の座に居座り続けて既に25年以上が経過。
反政府デモも発生しており、これに対して政府は暴力的な弾圧をすることで押さえつけています。
では、ベラルーシについて詳しく見ていきましょう。
基本情報
気候
国土のほぼ全土が冷帯湿潤気候(Dfb)に属し、夏でも比較的冷涼で、冬は平均気温が氷点下を下回る厳しい寒さとなります。
降水量は年間を通してほぼ一定。冬は3〜4ヶ月にわたって一面真っ白の雪景色が広がります。
大陸性気候と海洋性気候の交わる位置にあるため、急な天気や気温の変化も珍しくありません。
10月から11月にかけて気温が急降下し、3月から4月にかけて気温が急上昇するのが特徴。4月には夏日となる日もあります。
地理
ベラルーシは5カ国に囲まれた内陸国で、内陸国としては世界最北に位置しています。
国境付近には河川や湖が多いものの、自然国境はほとんど見られず、そのほぼ全体が人工的に引かれた国境です。
ホメリ州のロシアとの国境付近に飛び地のサニコヴォ=メドヴェジェがあるものの、居住者はいません。
地理的特徴
国土は全体的に平坦な地形で、ベラルーシ山脈が平地を分断しており、最高標高はジェルジンスカヤ丘陵の345m。
国土の北部には、氷河によって形成されたなだらかな尾根があり、数多くの湖が存在。
3000を超える河川と4000を超える湖沼に恵まれ、水資源は非常に豊富。水力発電にも利用されています。
国土の40%がプシュチャと呼ばれる森林で覆われ、北部は主に針葉樹、南部は落葉樹です。
ポーランドにまたがって広がるビャウォヴィエジャの森はヨーロッパ最後の原生林と呼ばれ、世界遺産に登録。
ここではヨーロッパバイソンなど他の地域で絶滅した動物を保護しており、ポーランドと共同で管理されています。
行政区画
ベラルーシの行政区画は、首都ミンスク市とオーブラスチと呼ばれる6つの州の7地区に区分。
各州都名がそのまま州名となっており、ミンスク州に関してはミンスク市が州都を兼ねています。
・ミンスク市
・フロドナ州
・ホメリ州
・ブレスト州
・マヒリョウ州
・ミンスク州
・ヴィーチェプスク州
チェルノブイリ原発事故
1986年に発生したチェルノブイリ原発事故により、国土南東部が放射能によって汚染されました。
その汚染区域はウクライナよりも広く、住民は移住を余儀なくされ、現在でも立ち入ることはできません。
事故発生以降、付近の住民やその子供たちの甲状腺がんや染色体異常などの症例が何倍にも急増しました。
歴史
スラブ人の定住〜
ベラルーシ一帯は、古代から数世紀ごろの間にスラブ人が定住を開始したことが始まりだとされています。
9世紀になり、キエフ大公国から分離したポロツク公国が成立。その後、モンゴル帝国の支配を経て、13世紀にリトアニア大公国に取り込まれます。
当時のリトアニア大公国は、現在のベラルーシを中心にバルト海から黒海にかけて支配するヨーロッパ最大級の強国でした。
後にポーランドとの連合国家、ポーランド・リトアニア共和国となり、国民のポーランドとの同化がなされます。
ロシア統治下〜
18世紀後半、内紛等で弱体化したポーランド・リトアニア共和国は周辺国によって分割され消滅。ベラルーシはロシアに併合されます。
ソ連成立直後、ベラルーシ人民共和国として独立するも、数年でソ連に併合。西側半分はポーランド領となります。
第二次世界大戦時にポーランド側の領土もロシアに併合され、ソ連の一部としてナチスドイツと戦いました。
ドイツの侵攻による破壊や虐殺により国土は荒廃。多くの人々が強制収容所に収監されたこともあり、全人口の4分の1が死亡したとされています。
大戦後、めざましい復興を遂げ経済的に回復し、ミンスクはソ連の産業の中心地となりました。
1986年に発生したチェルノブイリ原発事故により、国土南東部を中心に国土の約5分の1が深刻な放射能汚染を受け、現在もその影響が続いています。
独立後〜
ソ連崩壊に伴い、1991年に独立。1994年にアレクサンドル・ルカシェンコが初代大統領に当選しました。
ルカシェンコは8割を超える得票率で当選。その政策によって独立後の経済を安定させるなどの成果を上げています。
しかし、選挙で不正を行ったり、対立候補や反体制派を弾圧するなど独裁政治を敷き、現在まで一度も大統領の座を降りていません。
選挙における不正を西側諸国から指摘されており、ヨーロッパ最後の独裁者とも呼ばれています。
2021年に反体制派ジャーナリストの拘束のために旅客機を強制着陸させる事件を起こし、国際社会から強い批判を浴びました。
2020年には大規模な反政府デモが発生。鎮圧を試みた警察部隊との衝突によって死傷者が出ています。
情勢
治安
ベラルーシは独裁国家であることから、治安が悪いイメージがあるかもしれませんが、実際は概ね良好です。
しかし、現在はロシアによるウクライナ侵略による影響で、外務省による危険レベルは3から4となっています。
特にウクライナとの国境付近は軍事衝突が発生する危険性があり、非常に危険な状況です。
また、ベラルーシがロシアに協力的であることを理由に、日本も欧米同様ベラルーシに経済制裁を課しました。
政治
ルカシェンコ大統領は1994年以来、6期連続で大統領の座に就いており、独裁的な体制を敷いています。
大統領の三選禁止規定を削除するなど、自身の権力維持に努めており、その在任期間はヨーロッパ最長です。
反政府デモを武力鎮圧したり、選挙に不正の疑いがあったりと、そのやり方は度々西側諸国から批判されています。
経済
ルカシェンコ大統領は、社会主義市場経済*1を導入し、旧ソ連時代の技術力を活かした工業で経済成長を遂げてきました。
その経済はロシアに依存傾向にあり、ロシア経済の悪化はベラルーシ経済に直接的な影響を及ぼします。
そのため、経済状況は不安定で、これまでに3回のデノミネーション*2を実施。直近では2016年位1万分の1の通貨単位切り下げを行いました。
2011年には経済危機に陥り、状況打開のためユーラシア連合*3に加入したため、ロシアのベラルーシ経済に対する影響がますます強まりました。
当然、最大の貿易相手国もロシアで、鉱物やエネルギー資源を輸入。EU諸国も大きな貿易相手国で、最大の輸出品も輸入と同様鉱物です。
石油や天然ガスなどのエネルギー資源の大半をロシアから輸入して賄っています。
文化
文化的特徴
・白ロシアとも呼ばれ、旧ソ連時代の国名は白ロシア・ソビエト社会主義共和国
・ベラルーシ語とロシア語の両方を使って会話することがあり、この二つの言語が混ざったトラシャンカと呼ばれる言語も使われている
・風邪をひいた時、塩やコショウを入れたウォッカや、卵黄と蜂蜜を混ぜたミルクを薬代わりにする人がいる
・ゲストに対して、パンと塩を提供することが伝統的なおもてなし
・バトレイカという人形劇がクリスマスに開催される
料理
ベラルーシ料理はポーランドやリトアニアなどの近隣諸国、他のスラブ諸国の料理と類似点があります。
その中にベラルーシ独自の特徴があり、主に使われる食材は豚肉や淡水魚、じゃがいもや穀物類など。
ドラニキはベラルーシを代表する国民的料理。じゃがいもをすりおろして肉やチーズなどと混ぜたポテトパンケーキです。
サワークリームをかけて食べるのが一般的。バリエーションが多く、多くのレストラン食べられます。
近隣諸国でよく食べられるボルシチも人気料理の一つ。ライ麦パンとサワークリームが添えられ、夏場には冷たいボルシチも食べられます。
マチャンカはチーズベースのクリーミーなシチュー。豚肉などが入ったシチューに付け合わせのパンなどを浸して食べるのが好まれます。
スポーツ
ベラルーシでは、伝統的にチェスやチェッカーのようなボードゲームが盛んでした。
近代以降、体を動かすスポーツも徐々に普及。1952年にソ連としてオリンピックに初参加しています。
現在はスポーツに力を入れており、スポーツの専門学校や大学が多数存在。スポーツ施設も数多くあります。
アイスホッケーが非常に盛んで、国際大会でも好成績を残している強豪国。ルカシェンコ大統領も好み、自分もプレーするほど。
サッカーも人気スポーツの一つ。国内リーグもあり、コロナ禍で各国のリーグ戦が中断している中通常開催し、注目を集めました。
観光地
渡航基本情報
首都ミンスクにある、ミンスクナショナル空港が空の玄関口。日本からの直行便はなく、ヨーロッパ諸国で乗り継ぎとなります。
近隣諸国からバスや電車での越境も可能。陸路で入国する場合、ビザが必要となるので注意が必要です。
長い歴史を誇る首都ミンスクは、ベラルーシ旅行の拠点となる街で、見どころも少なくありません。
第二次世界大戦で荒廃し、戦後スターリン様式*4の都市として復興。旧ソ連時代に建てられた建物が数多く残っており、歴史を感じさせてくれる街です。
独立広場はミンスクの中心地にあり、レーニン像が残っているのが大きな特徴。ショッピングモールやレストランもある散策スポットです。
聖シモン・エレーナ教会は赤レンガ造りののカトリック教会。長崎にある浦上天主堂から贈られた鐘があります。
ミール城
16世紀に建設された、ゴシック様式やルネサンス様式の城です。世界遺産にも登録されています。
敷地内にはイタリア風のフラワーガーデンや、広大な人工湖があり、外回りの散策や、内部の見学が可能。
何度か戦火による損傷と復元を繰り返しており、ベラルーシの辿った歴史を象徴する建物です。
ビャウォヴィエジャの森
ポーランドとの国境を跨いで広がる、ヨーロッパ最後の原生林。貴重な動植物が多数生息。
針葉樹と広葉樹の両方が広がる手付かずの広大な森林で、観光地として人気ですが、希少動物の保護区でもあります。
そのため、立ち入りが制限されている区域が広く、個人で行けるのは一部のみです。ガイドツアーならば森の奥まで入ることも可能。
国際関係
EUとの関係
ベラルーシは元々、すべての国境を接する近隣諸国と良好な関係性を築いていました。
特にポーランドやリトアニアとは歴史的にも関係が深く、文化的にも大きく影響を受けています。
EUそのものとはそこまで友好的な関係性とは言えず、ベラルーシの独立以降悪化と改善を繰り返してきました。
そんなEUとの橋渡しのような役回りをしていたのが、ポーランドとリトアニアです。
そして現在、2020年の大統領選挙の際の不正や弾圧、旅客機の強制着陸などの事件により関係性は悪化。
更に、ロシアのウクライナ侵攻に協力的なことにより、EUはベラルーシに制裁を加えるなど、その関係性は悪化の一途を辿っています。
ロシアとの関係
ロシアとは文化的、民族的に近いことから親しい関係性にあり、また経済的にも密接な関係にあります。
ベラルーシは基本的に親ロシア国ですが、すべての面で良好な関係性というわけではありません。
ロシアはベラルーシの併合を狙っており、ルカシェンコ大統領はこれに反発。これに対し、ロシアは乳製品の禁輸など制裁を行いました。
現在は、経済統合推進への合意、ウクライナ侵攻への協力などロシアへの歩み寄りを見せ、関係性が改善しつつあります。
まとめ
ヨーロッパ最後の独裁国家と呼ばれ、ヨーロッパ諸国の中でも異質の存在感を持つベラルーシ。
独裁的な政治体制ながら、ルカシェンコ大統領はインフラの整備や治安の維持など一定の功績も残してきました。
危険な独裁国家というイメージがあるかもしれませんが、もちろんその政治体制は問題ですが、存外穏やかで安定している面もある国です。