混迷するイスラム教国 アフガニスタン
アフガニスタン・イスラム共和国は、中央アジアに位置する内陸国で、イラン、パキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、中国と国境を接しています。
ちなみに、国名にあるスタンというのはペルシャ語で「土地」を意味します。アフガニスタンの場合、アフガン人の土地という意味ですね。
紛争が続いており、渡航困難な観光とは無縁の国というイメージもあるかもしれないですが、実はかつてはバックパッカーに人気の国でした。そんなアフガニスタンが実際はどんな国なのか紹介していきます。
基本情報
気候:気温の年較差、日較差ともに大きい大陸性気候で、特に山間部ではメートル単位の積雪も観測されます。
各都市の気候区分
地理
日本の1.7倍ほどの国土の大部分は山岳地帯であり、南部には砂漠が広がっています。砂漠地帯では、中村哲さんが緑化活動等を行っていましたね。
国土の山岳地帯に広がるヒンドゥークシュ山脈アルプス・ヒマラヤ造山帯に属する山脈で、1200kmにわたって延びており、7000m超の峰を複数持つ広大な山脈です。
国内を流れる川はいずれも砂漠で消滅する*内陸川であり、カブール川のみインダス川に合流し、海まで到達します。国土の大半が乾燥地帯で覆われたこの国で水資源はとても貴重なものです。
*内陸川…海まで到達しない川のこと
首都カブールは、東京とほぼ同緯度に位置していますが、乾季と雨季に分かれており、乾季に当たる夏場は滅多に雨が降らず、気温が40度を超えることもあります。雨季に当たる冬は気温が氷点下を下回ることもあり、積雪も観測されます。
歴史
アフガニスタンは、古来よりいくつもの王朝による支配を受けてきました。19世紀に入り、アフガニスタン首長国として独立したものの、グレートゲームと呼ばれる大国間の勢力争いに巻き込まれ、二度に渡るアフガン戦争によってイギリスの*保護国となりました。
*保護国...外交権等一部の主権を相手国に譲渡し、その相手国から保護を受ける国のこと
また、この時にロシアと英領インドの国境を接させないよう緩衝地帯としての役割のために、北東部のワホール回廊がアフガニスタン領となりました。
その後、20世紀前半に再独立を果たし近代化を目指していくものの、不安定な情勢が続いていました。1979年ソ連の軍事介入によりアフガニスタン紛争が勃発、1989年にソ連軍は撤退しましたが、今度は内戦やタリバン政権と西側諸国連合の衝突など、紛争は続いていました。
2001年にアフガニスタン・イスラム共和国として民主政権が発足したものの、2021年再びタリバンによって主要都市が次々と制圧、民主政権は終わりを迎えました。
麻薬栽培
アフガニスタンは古来より麻薬の原料となるケシの栽培が伝統的に盛んな国であり、国内では依存症が深刻な社会問題となっています。また、世界に流通しているアヘンの大半はアフガニスタン産であり、国内の主要産業の一つとなっています。
国内情勢
主にタリバンとの紛争によって、アフガニスタンは長きにわたり不安定な情勢が続いています。そして2021年8月、タリバンがアフガニスタン全土の掌握を宣言、駐留米軍も完全撤退し、民主政権が崩壊しました。
タリバンとは?
ニュースでもよく耳にするタリバンというのがどういった組織なのかご存知でしょうか?
タリバンとは、一言で言えば過激なスンナ派の組織です。厳格なイスラム法であるシャリーアによる国家統治を目指す原理主義者の集まりで、世界遺産である文化財を破壊、数多くのテロを首謀したりと凄惨な事件をいくつも引き起こしています。2008年にはボラティアの日本人が殺害される事件もありました。
そんなタリバンはアフガニスタン全土を掌握以後、国名をアフガニスタン・イスラム首長国へと変更、それに伴い国旗も変更されました。
アフガニスタン・イスラム共和国国旗(左)
アフガニスタン・イスラム首長国国旗(右)
タリバンは政権掌握後、アートや音楽などの芸術を禁止し、女性の就学・就労を認めないといったイスラム法に則った現代社会にそぐわない規制を次々に実施しています。
文化
アフガニスタンは古代シルクロードの交わる位置にあり、様々な文化が混ざり合い豊かな複合文化を形成してきました。
料理:乾燥した内陸国であるが故、国内で生産される作物は小麦やとうもろこしといった穀物類が中心です。
代表的な料理としては、ニンジンやラム肉等を米と炊き合わせたパロウや、麺料理のアシュ、野菜類をヨーグルトで和えたボラニ、揚げ菓子のゴッシュエフィルなどがあります。
パロウ
音楽:アフガニスタンでは、民族楽器のラバーブをはじめ、様々な種類の楽器を演奏します。
また、シルクロードの交差点に位置していたが故、民族音楽は地域によってその毛色が異なってきます。
スポーツ:アフガニスタンで最も人気のスポーツはクリケットです。2000年にはスポーツが禁止されていたタリバン政権下において唯一禁止措置が解除されたスポーツで、W杯にも出場しています。その他、サッカーやバレーボールも人気です。
2022年3月現在、タリバン政権は顔や体を隠せないとの理由から女性のスポーツ参加を認めていません。
生き物:ユキヒョウ、ツキノワグマなど多種多様な哺乳類が生息していますが、密猟による乱獲、紛争の影響などによってその多くが絶滅の危機に瀕しています。
観光地
渡航基本情報
アフガニスタンに渡航する場合、カブール国際空港へ空路で渡るか、近隣国から陸路で渡航することになります。しかし現在、アフガニスタンは全土が外務省による危険レベル4の退避勧告が出ています。
タリバン政権の全土制圧によって極めて危険な情勢にあり、渡航は到底現実的ではありません。アフガニスタンに行ってみたい方は、いつの日か情勢が落ち着き、渡航可能になることを祈りましょう。
そんなアフガニスタンですが、一見の価値がある観光地や世界遺産もあります。実際に見ることは困難ですが、アフガニスタンの見所をいくつか紹介します。
バーミヤン渓谷:ヒンドゥークシュ山脈内の渓谷地帯で、「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」として世界遺産に登録されています。古代の石窟や石仏、壁画など、当時の仏教文化を示す歴史的価値の大きな遺跡でしたが、2001年にタリバン政権によって破壊され、甚大なダメージを被りました。それ故、*危機遺産にも登録されています。
*危機遺産...その価値が失われる危機に晒されている世界遺産
バーミヤンの石仏
ジャムのミナレットと考古遺跡群:アフガニスタンにあるもう一つの世界遺産です。65mの高さの*ミナレットは幾何学模様やアラビア文字の刻印が施され、建築された12世紀末の文化と建築技術を象徴しています。
バンデ・アミール湖:砂漠の真珠と呼ばれる標高3000mの山岳地帯にある6つの湖の総称です。現在、そのうち一つは枯れてしまっていますが、残りの5つは青く美しく輝く、神秘的な雰囲気を纏う湖です。
国際関係
現在、タリバン政権が主張しているアフガニスタン・イスラム首長国を国家承認している国は一つもありません。
アフガニスタン・イスラム共和国崩壊前は、インドやパキスタンとビジネスパートナーとしての関係性を築き、特にトルコと友好的な関係にありました。日本の大使館も現地にありますが、現在は情勢の悪化に伴いその機能をカタールの首都ドーハに移転しています。
まとめ
長きに渡り争いの渦中にあるアフガニスタンですが、豊かな文化が育まれ、深い歴史を持つ国です。
情勢が落ち着き、平和になれば多くの旅人の訪れる国になるポテンシャルを秘めていると思います。いつの日か本来の美しさと豊かさを取り戻し、気軽に訪れることのできる国になることを願っています。